アンカーの話をしよう。

“Slip Tips” で取り扱う「アンカー」について,”Slip Tips” 的な定義をしておきましょう。巷で「グラウンドアンカー」,「アースアンカー」,「ロックアンカー」あるいは「地盤アンカー」などと呼ばれるもののうち,”Slip Tips” ではどの範囲までを「アンカー」として取り扱うのか,取り敢えず決めておこうという訳です。

 

 

1. アンカーの定義

“Slip Tips” 的「アンカー」とは,・・・

「ボーリングマシンによって地盤中に穿孔されたアンカー孔に,弾性体と見做せる線状あるいはより線状の引張材を挿入し,その地表側と地中側の両端部を地盤に定着させる構造を有し,同引張材に緊張力を付与することで地盤内に作用する圧縮応力(プレストレス)によって,地盤の変形ないしは地表構造物の変位を抑止する工法。および同工法の構成部材一式。

図 1 アンカー工法の基本構造①(斜面安定工の例)
(クリックで拡大)

図 2 アンカー工法の基本構造②(土留め支保工の例)
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・・・です。

アンカー工法について予備知識のある方は,「アレッ? 地盤工学会や建築学会の記載と違うんでないかい?」と思われるでしょう。その通りです。上記の定義をはじめ,”Slip Tips” でこれからお伝えする「アンカーの話」は,あくまでもライズの勝手な解釈の元,独断と偏向に満ちた内容となっております。ですから,業務成果や説明資料などへの転用は,厳に控えていただくことを希望します。聞いたことのない用語や変な解説について,お客様からクレームが寄せられても,ライズは責任を負いかねます。とは言っても,ライズもある程度の常識は持ち合わせているつもりです。地盤工学会や建築学会の解釈と全くかけ離れた内容にはならないよう留意しつつ,「アンカーの話」を進めさせていただきますので,「そう言う解釈も有りなのか。」程度のゆるい感じでお付き合いいただければ幸いです。

 

2. アンカーの構造と機能

さて,気を取り直して,話を進めましょう。冒頭に示したアンカーの構造と機能の定義について,要点を抽出しましたので,以下をご覧ください。

  1. 引張材の地中側の端部に,引張材に付与された緊張力を地盤に伝達させる「定着体」を有すること。
  2. 引張材の地表側の端部に,引張材に付与された緊張力を地表の反力構造物に伝達させる「頭部定着具」を有すること。
  3. 地中の定着体と地表の頭部定着具が,弾性体と見做せる線状あるいはより線状の「引張材」によって連結されていること。
  4. 引張材に緊張力が付与されていること。
  5. 引張材に緊張力を付与することで地盤内に作用する圧縮応力(プレストレス)によって,地盤内部の変形や,地表の構造物の変位を抑止する工法であること。

それぞれ簡単に解説します。今後の ”Slip Tips” の展開上,アンカー工法を成立させるためには,これだけは覚えておいていただきたい事項,あるいは思い出していただきたい事項を,ざっとではありますが,以下に列記させていただきます。「アンカー工法の基本なんぞ,知ってて当然だろう!」という方は,読み飛ばしちゃってください。

2-1 定着体

定着体は,引張材に付与される緊張力を地盤に伝達するための部位で,「アンカー定着体」「アンカー体」あるいは「定着部」,「定着長部」などと呼称されます。当該部位は,一般にセメントミルクやモルタルなどのセメント系硬化材を用いた注入工法,いわゆる「グラウチング」によって造成されます。ただし,地盤の酸性度が高く,引張材の腐食や,セメント系硬化体の中性化が懸念される場合は,注入材として合成樹脂系材料が採用されることもあります。

2-2 頭部定着具

頭部定着具は,引張材に付与される緊張力を地表の反力構造物に伝達するための部位で,「定着具」あるいは「アンカー頭部」などと呼称されます。当該部位は,引張材を直接把持(固定・定着)するための構造を有し,アンカーの使用目的や供用環境に応じて,「くさび定着方式」,「ナット定着方式」あるいは「くさび・ナット複合定着方式」が採用されます。

2-3 引張材

アンカーには,常時 100kN ~ 2,000kN 程度の緊張力が付与されることから,引張材には,降伏点の高いPC鋼より線やPC鋼複合より線が使用されます。過去には,PC棒鋼(異形棒)を使用するアンカー工法もありましたが,施工性と耐久性の面で課題が多く,現在では殆ど利用されなくなりました。また,稀な例ですが,炭素繊維ケーブルや,アラミド繊維ケーブルを使用するアンカー工法も開発されています。

2-4 引張材に付与される緊張力

引張材には,地盤の変形を抑えるために必要とされる緊張力,あるいは地表構造物に作用する土圧に対抗する緊張力が付与されます。一般には,頭部定着具に油圧ジャッキを設置し,引張材に所定の緊張力を付与した状態で,くさびやナットなどで同引張材を固定(定着)します。アンカーの設計耐力には,この緊張力を超える引張耐力および引抜耐力が求められます。

2-5 緊張力によって発生する圧縮応力

引張材に緊張力を付与することにより,頭部定着具と定着体に挟まれた地盤内には,圧縮応力が作用します。この圧縮応力は,「プレストレス」あるいは「アンカー力」などと呼ばれ,アンカー工法では,斜面上の不安定土塊の滑動や崩壊に伴う推力に対して,あるいは擁壁や土留め壁に作用する土圧に対して,抵抗し得る「応力(ストレス)」を「あらかじめ(プレ)」導入することによって,地盤内部の変形と地表構造物の変位を抑止します。

 

“Slip Tips” では,今後数回に渡って,グラウンドアンカー工法をテーマとして,ブログをアップしていきます。乞うご期待。(”Slip Tips” にて取り上げてほしい疑問がありましたら,リクエストをお寄せください。お待ちしております。)

さあ,アンカーの話をしよう!

平成 29 年 12 月 6 日 ライズ