アンカーの話をしよう。

“Slip Tips” をご覧いただいている方の中に,以下のような経験をされた方はいらっしゃいますか?

「アンカーの削孔中に隣接する施工済みのアンカーを穿孔してしまった。」
「アンカーの削孔中に既設の抑止杭や集水井,水抜き・集水・排水ボーリングを穿孔してしまった。」
「水抜き・集水・排水ボーリングの削孔中に既設のアンカーや抑止杭を穿孔してしまった。」

因みに,ライズは,上記の内の幾つかを「してしまった」ことがあります。実際に新設アンカーの削孔中に,隣接するアンカーや既設構造物を穿孔してしまった場合,事態は深刻です。穿孔された側のアンカーや構造物については,補修する必要がありますし,補修ができない場合は,再施工しなければなりません。また,穿孔してしまった方の新設アンカーも,当初計画の施工位置から大きくズレている訳ですから,再施工せざるを得ません。その上,「事前のチェックを怠っていた。」場合や,「特記事項として明記していなかった。」なんて場合には,「指名停止」を受けるくらいの覚悟が必要です。

通常,アンカーの削孔には,ロータリーパーカッション削孔機による二重管削孔方式が採用されます。この削孔方式は,元々は,高トルクの回転と高速の打撃によって地盤を急速削孔するために開発された削孔方式です。ですから,異変に気付いた時には,既に「やっちまったなぁ~」的な状況となってしまいます。隣接アンカーや既設構造物との近接を避けるために,施工に先んじて,それらの位置関係を把握し,慎重に慎重を重ねて削孔を進めても,当たるときには,当たってしまうものなんです。ロータリーパーカッション削孔は,結構曲がってしまうんですよね。(言い訳っぽいですが,本当のことです。)

そこで,今回の “Slip Tips” では,新設アンカーと隣接アンカーとの近接や平面交差を防ぐために,設計段階あるいは着工前に執ることのできる対応策について考察しましょう。

 

 

1. 隣接アンカーの最小間隔

現在履行されているアンカー関連の設計基準や設計要領では,隣接するアンカー同士の最小間隔について,「アンカーの定着体において 1.5 m 以上を確保する。」と規定されています。この規定に関する具体的な記載内容を,幾つかの文献から抜粋して以下に例示します。

アンカー体設置間隔は,設計アンカー力,アンカー体径,アンカー体長などアンカーの諸元を考慮して決定する。この場合,グループ効果によりアンカーの極限引抜き力が減少する場合があることに注意しなけらばならない。グループ効果の影響はアンカー体設置間隔,アンカー体長,アンカー体径,地盤との関係により求まる。一般には 1.5 m 以上確保すればグループ効果を考慮しなくてよいと考えられている。

「グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説;(公社)地盤工学会,2012 年 5 月,p.66」より抜粋

アンカーの最小間隔は 1.5 m 以上とする。アンカーの最小間隔を制約する要因には,削孔による孔曲がり,隣接孔の削孔に伴う影響(緩み,応力開放や掘削泥水の浸透など),アンカー体の緊張による影響や相互干渉があり,アンカー頭部およびアンカー体設置部ともに最小間隔を 1.5 m 以上とする必要がある。ただし,一般的な長さ(30 m)以上のアンカーで転石まじりや不均質な地質では,極端にボーリングが孔曲がりすることもあるためアンカー体部が交差しないように試験施工を行うなどにより最小間隔を決定しなければならない。

「グラウンドアンカー設計・施工要領:東日本高速道路(株),2007 年 8 月,p.49」より抜粋

アンカー間隔は一般に 1.5 m ~ 4 m とする。アンカー間隔が小さい場合は,グループ効果によりアンカー 1 本当たりの引抜き抵抗力が低下することになるので注意する。

「道路土工ー仮設構造物工指針;(公社)日本道路協会,1999 年 3 月,p.129」より抜粋

アンカーの最小間隔に関する規定が設けられている背景には,新設アンカーの削孔に伴う周辺地盤の緩み,削孔孔そのものの孔曲がりによる交差,近接アンカーの相互干渉による引抜耐力の減少など,定量評価の難しい問題が残されていることがあるようです。ここで,特に気を付けていただきたいのは,近接アンカーの相互干渉に起因する引抜耐力の減少です。この問題は,「アンカーのグループ効果」あるいは「群アンカー効果」と呼ばれ,隣接するアンカー同士のアンカー体間隔が狭い場合,アンカー体の引抜耐力に寄与している地盤中の抵抗領域が,隣接するアンカーの抵抗領域と重複し,両方のアンカーの引抜耐力が減少してしまう事象です。この問題の回避策として,グループ効果による引抜耐力の低減率を考慮する方法が提案されてはいますが,殆どの場合においては,懸案となったアンカーの打設位置,水平角,傾角を変更したり,あるいは定着体を深部に移設するなどの調整を行って,グループ効果を考慮する必要のない目安といわれる「定着体の設置間隔 1.5 m 以上を確保」しているのが実情です。

 

2. アンカーの近接判定 2D

隣接するアンカー同士の最小間隔については,概ね「定着体の設置間隔 1.5 m 以上を確保」する必要があることが分かりました。では,どのような状況において,アンカーの近接や平面交差が問題となるのでしょうか? 例えば,「図 1 アンカーの近接や交差が問題となる事例」に示すように,切土法面の平面形状が道路側に凸状となっている場合や,土留め壁の平面形状に凹凸がある場合などは,アンカーの近接や交平面差が懸念される状況と言えるでしょう。そして,「図 1」に示すような状況は,実際の設計案件や施工物件において,頻繁に遭遇する現場条件です。このような場合,「事前に」アンカーが近接し過ぎていないか判定し,問題があればその対策を執らなければなりません。

図 1 アンカーの近接や平面交差が問題となる事例
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2-1 平面図を利用した近接判定

一般的なアンカーの近接判定と近接回避の検討は,次のような流れで行われています。

「平面図」に計画アンカーを型入れし,隣接するアンカー同士の定着体間隔をチェックします。隣接アンカーとの定着体間隔が 1.5 m 未満となった場合は,近接関係にあるアンカーの両方か,あるいは片方のアンカー水平角を調整したり,片方のアンカーの定着体を計画位置よりも深部に移設することによって,1.5 m 以上の定着体間隔を確保します。

ここで,留意していただきたいのは,アンカー水平角を変更した場合の設計アンカー力です。設計アンカー力は,平面図上では,斜面の滑動方向や土圧の作用方向に対して,平行かつ反対方向に作用する導入力として算出される設計値です。すなわち,「アンカー水平角の変更 = 設計アンカー力を導入する方向の変更」ですから,アンカー水平角を変更した場合は,設計アンカー力を割増し補正しなければなりません。補正の方法については,以下の「式 1」を適用するのが一般的です。

図 2 アンカー傾角 α とアンカー水平角 θ
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2-2 横断図を利用した近接判定

平面図を利用した近接判定において,隣接するアンカー同士の定着体間隔が 1.5 m 未満となることが判明し,さらに,アンカー水平角の調整や,定着体の深部移設を図っても,アンカーの近接を十分に回避できない場合は,「横断図」を利用して,近接回避の方法を検討します。近接関係にある上下段のアンカーのうち,上側アンカーのアンカー傾角を小さく(水平に近い方向に調整)することによって,あるいは上下段のアンカーのうち,片方のアンカーの定着体を計画位置よりも深部に移設することによって,1.5 m 以上の定着体間隔を確保します。

ここで,留意していただきたいのは,アンカー傾角を変更した場合のアンカー長(アンカーの全長)です。アンカー傾角を小さくすると,アンカー軸上における地表と定着地層との距離は,広がってしまいます。したがって,定着体を適正な地層に配置するには,アンカー長を延伸しなければなりません。なお,本来であれば,アンカー傾角の変更に伴って,設計アンカー力を計算し直す必要がありますが,次の理由により,設計アンカー力の変更を行わないのが一般的です。

前回の “Slip Tips” でも紹介しましたが,アンカーの対策効果は「引き留め効果」と「締め付け効果」に分離して考えることができます。アンカーの対策効果を考慮した斜面の安全率式「式 2」に基づけば,アンカーの近接を回避するためにアンカー傾角 α を小さく(水平に近い方向に調整)した場合,「引き留め効果は増大」し,「締め付け効果は減少」することが分かります。さらに,アンカー傾角 α の変更に伴って,引き留め効果と締付け効果がどの程度の影響の受けるのかという点に注目すると,締め付け効果の項に tanφ が掛かっていることから,「引き留め効果の変化量 > 締め付け効果の変化量」の関係であることが分かります。以上のことから,アンカー傾角 α を小さく(水平に近い方向に調整)した場合,「対策効果の増大量が大きく,対策効果の減少量が小さく」なり,総合的には「対策効果が増大する」ものと予察されます。

図 3 アンカーの対策効果(引き留め効果,締め付け効果)
「道路土工ー切土工・斜面安定工指針;(公社)日本道路協会,2009 年 6 月,p.292」より抜粋・加筆
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以上を考慮して,一部のアンカーの傾角 α を小さく(水平に近い方向に調整)する場合には,わざわざ設計アンカー力の補正を行わないのが一般的となっています。

2-3 簡易な近接判定

詳細な近接判定を行う前の段階,あるいは平面図や横断図を編集できない環境では,アンカー配置線形の曲線部半径,アンカーの打設間隔,アンカー長,アンカー傾角,およびアンカー水平角などの計数値に基づく幾何計算によって,隣接するアンカー同士の最小間隔を把握することもあります。以下に,道路曲線部における法面アンカーの計算式「式 3」および「式 4」,土留め支保アンカーの計算式「式 5」および「式 6」を例示しますので,ご試用ください

図 4 道路曲線部における法面アンカーの近接判定例
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図 5 土留め支保アンカーの近接判定例
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2-4 2 次元管理の限界

アンカーが計画されている設計案件や施工物件において,斜面や法面の形状,アンカーの打設位置や打設方向,地盤中のアンカー定着体の配置などに係わる全ての情報は,本来であれば,3 次元空間上で管理されるべき対象です。しかし,起工時に用意されている設計資料と言えば,殆どの場合において,「平面図」や「断面図」といった特定箇所の 2 次元の「面」情報と,この面情報の線形補間から推定された「点」の 3 次元座標しか用意されていないのが実情です。

2 次元管理の具体的な弊害としては,設計管理された構造物の厳密な 3 次元座標情報を得られないことが挙げられます。例えば,道路の新設工事において,切土法面を造成し,さらにアンカーで斜面安定を図るケースを想定してください。当たり前のことですが,2次元の設計管理では,切土法面の形状も,アンカーの打設位置の座標も,アンカーの長さの決定根拠となる地質分布も,全ての情報が 2 次元の面情報,「1 枚の平面図」と「概ね 20 m 間隔で作成された複数枚の測量横断図」に基づいて決定されています。したがって,「横断図」に相当する箇所の設計精度には何の問題もありませんが,それ以外の範囲,「横断図」と「横断図」に挟まれた範囲については,どの程度の精度が望めるのでしょうか? 道路の平面線形が直線の場合は,隣接する横断図から線形補完することで,施工に必要とされる cm オーダー精度の情報を得ることができるでしょう。しかし,曲線部ではどうでしょうか? 緩和曲線部ではどうでしょうか? さらに,数%の縦断勾配が設定されている箇所ではどうでしょうか? 切土勾配が変化する擦り付け部ではどうでしょうか? 切土と盛土の切替区間ではどうでしょうか? ライズの場合,何とか設計資料をまとめることはできるでしょうが,施工に際して必要とされる設計精度を維持できているのか,自分に自信がもてません。

上記の問題は,やはり皆さん共通の認識のようです。大手と言われる設計会社や,発注者から高い信頼を寄せられている老舗の設計会社が納めた設計成果でさえ,次のような不備を容易に見つけ出すことができます。

  1. アンカー打設位置の 3 次元座標が明記されていない。(設計情報として把握しているのかさえ怪しいですね。現場の判断でアンカーの打設位置を決めるのでしょうか。)
  2. 道路曲線部の法面において,複数段のアンカーの水平間隔が,全て同じ幅で設定されている。(道路曲線部の切土法面は,円錐状かすり鉢状を呈します。円錐状の法面では,アンカーの水平間隔は「上段:狭い ~ 下段:広い」となり,すり鉢状の法面では,「上段:広い ~ 下段:狭い」となります。設計成果のままでは,アンカーを配置できません。)
  3. 切土法面の 3 次元モデルに基づいた設計を謳ってはいるものの,隣接する測量横断と測量横断の間を,大きな三角形メッシュ(三角形の平面)で線形補完して(繋いで)法面をモデル化しているため,道路曲線部において,実現場からかけ離れた離れた座標値となっている。(平面図と横断図を使用して,同程度のことができます。)
  4. 切土法面の法肩が横断図を結ぶ直線で描画され,アンカー用の受圧板が法肩からはみ出して描かれている。(現場にどうしろというのでしょうか?)

アンカーを含む道路工事や防災工事では,その総額が数千万円から億の単位に達することもあります。したがって,設計費用についても,決して少なくない金額が計上されているはずです。そんな設計業務の成果が,上記のような内容というのは,どういうもんなんでしょうか。「現場優先でお願いします。」あるいは「現場の自由度を制約したくないのです。」などという設計技術者の名言(迷言か?)をお聞きする機会が多いのですが,実は「これまでの慣例に則れば十分納品に値する設計成果を上げているのだから,後は現場合わせでお願いしたい。」というのが本音なんじゃないですかねぇ。

厳密な 3 次元の座標情報が得られないということは,今回の “Slip Tips” のテーマとなっている「アンカーの近接判定」においても,非常に深刻な問題です。アンカーの打設位置があやふやな状況では,隣接する 2 本のアンカーの定着体が,十数 m 先の地盤中において,どれだけ離れているかなんて,正確に把握できる訳がありません。さらには,近接を回避するために,アンカー傾角やアンカー水平角を何度調整すれば良いのか,そんなシビア-な議論ができる状況ではありません。

アンカーの近接判定における2 次元管理の弊害は,精度上の問題の他にも,まだあります。例えば,対象とするアンカーが比較的短く,上下左右の隣接するアンカーとの近接だけを考えればよい場合は問題ないのですが,長尺なアンカーで,かつ平面図上で隣接アンカーと交差してしまうようなケースでは,隣接アンカーのさらに隣のアンカーとの近接判定が必要となります。しかし,平面図と横断図から,それらの位置関係を正確に把握することは不可能です。このような状況は,地すべり対策などにおいて長尺な抑止アンカーを採用する場合や,掘削側に突出している土留め壁の支保アンカーなどで,普通に遭遇するケースです。

上記のような,2 次元空間上での設計管理の限界を考えれば,冒頭で述べたような「他の構造物を穿孔してしまった。」というような状況は,容易に起こり得ることと諦めるしかないのでしょうか?

 

3. アンカーの近接判定 3D

2 次元上の設計管理が精度不足を招く原因であるならば,その解決策は,「3 次元空間上での設計管理」をする他ありません。現況斜面,整形法面,土留め壁などの 3 次元モデル作成し,同モデル上において,アンカーと受圧構造物,さらにはその他の付帯構造物を配置して,設計上考慮すべき情報を 3 次元空間上において管理することが必要です。

3-1 3 次元設計管理

ライズは,・・・とういうか弊社「ライズ斜面設計株式会社」では,斜面の安定化や地すべり対策を目的としてアンカーを計画する場合,必ず以下の手順を踏みます。

  1. 対象箇所の調査測量成果,「平面図」と「横断図」に基づいて,3D CAD 上で「現況 3 次元モデル」を作成します。
  2. 「現況 3 次元モデル」上に,計画道路,計画法面,既設構造物などの作工物を配置した「計画 3 次元モデル」を作成します。
  3. 「計画 3 次元モデル」に基づいて,2 次元の設計図面,「土工平面図」,「土工横断図」,「法面展開図」などを作成します。
  4. 「計画 3 次元モデル」に基づいて,不安定化が懸念される任意の横断(測量横断以外の横断を含む)を選出し,それらの横断を対象として,斜面の安定性とアンカーの構造計算を再検証します。
  5. (3.)および(4.)の結果を踏まえ,「計画 3 次元モデル」上で新設アンカーの配置と規模を検討します。
  6. (5.)の検討結果に基づいて,2 次元の設計図面,「対策工平面図」,「対策工横断図」,「法面工配置図」,「アンカー配置図」,「アンカー構造図」などを作成します。
  7. (3.)および(6.)で作成した 2 次元の各種設計図面に基づいて,施工数量,概算工程,概算工事費を算出します。

ライズ斜面設計株式会社では,アンカーの設計をご依頼いただいた場合,上記のような方法で作成した 3 次元ベースの設計資料に基づいて,各種検討を執り行っております。以下に,検討事例をご紹介しますので,ご参照ください。

3-2 3 次元近接判定

ここでご紹介させていただく事例は,以下に示す現場条件とアンカー仕様に則って計画された,既往の 2 次元ベースの設計資料に基づいて,前節で示した 3 次元ベースの再検討および再設計を執り行い,併せてアンカーの近接判定を行ったものです。なお,具体的な現場情報が特定されないように,切土法面の周囲の地形情報を削除するなど,割愛と修正を施しておりますことをご了承ください。

  1. アンカー工の目的は,道路の新設に伴って造成される切土法面とその後背斜面の安定化を図ることである。
  2. アンカー工の計画範囲には,道路の曲線部が含まれる。
  3. 同曲線部の端部において,路肩拡幅に伴う切土法面の擦り付け区間が存在する。
  4. 道路曲線部の法面に配置されるアンカーと,擦り付け区間の法面に配置されるアンカーとの近接程度を確認し,アンカー定着体の許容間隔 1.5 m が確保されていない場合は,アンカーの配置を調整して,許容間隔を満たすアンカー配置を計画する。
  5. 道路線形とアンカーの仕様
     ・道路平面線形の曲線部半径 : R = 50.0 m
     ・道路縦断線形(縦断勾配) : 1.5 %(法面に正対して右上がり※1)
     ・切土法面の勾配      : 1:0.5
     ・アンカーの最大間隔    : 水平方向 3.0 m,法面長方向 3.0 m
     ・アンカーの定着体長    : 3.0 m
     ・アンカーの全長      : 7.0 m ~ 20.0 m
     ・アンカーの削孔径     : φ90 mm
     ・アンカーの許容間隔    : 定着体 1.5 m,全長 0.36 m(削孔径 × 4倍)
     ・アンカー用反力構造物   : 現場吹付法枠工,枠断面 400 × 400,枠間隔 3.0 m × 3.0 m

図 6 3 次元近接判定を行った法面アンカーの標準横断
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地盤中のアンカー定着体の近接を意識せずに,法面上においてアンカーの打設位置が規則正しい正方配置となるように配慮した場合のアンカー配置モデルを「図 7」に示します。同図中の灰色の円柱は,「円柱の高さ = 定着体長 = 3.0 m」および「円柱の直径 = 定着体の許容間隔 = 1.5 m」という条件に基づいて,アンカーの定着体を 3D モデル化したものです。また,同図中の一部の円柱が赤色で示されていますが,これらは隣接する円柱が重なっているもので,隣接する定着体の許容間隔が 1.5 m 未満となっているものを表しています。

図 7 地表面のアンカー配置を重視した場合の 3 次元アンカー配置(1)
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図 8 地表面のアンカー配置を重視した場合の 3 次元アンカー配置(2)
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上記のアンカー配置に基づくアンカー間隔の幾何計算結果を「表 1 地表面のアンカー配置を重視した場合の幾何計算にるアンカー近接判定結果」に示します。

表 1 地表面のアンカー配置を重視した場合の幾何計算にるアンカー近接判定結果(クリックで拡大)

地表側でのアンカー配置のみを重視した場合,「図 7」,「図 8」,「表 1」に示すように,11 本のアンカーについては,定着体の最小間隔が 1.5 m 未満となってしまうこと,さらに,そのうち 10 本のアンカーについては,アンカー全長での最小間隔が 0.36 m 未満となってしまうことが判明しました。

上記の検討結果を受け,アンカー定着体の近接を回避するために,アンカーの配置を再検討した結果を以下に示します。

図 9 地表面のアンカー配置を重視した場合の 3 次元アンカー配置(1)
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図 10 地表面のアンカー配置を重視した場合の 3 次元アンカー配置(2)
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表 2 地表面のアンカー配置を重視した場合の幾何計算にるアンカー近接判定結果(クリックで拡大)

3 次元空間上でのアンカーの配置検討によって,近接に関与しているアンカーの打設位置を変更し,さらに僅か 2 本のアンカーを延長(定着体を深部に移設)するだけで,アンカー定着体の近接を回避することができました。2 次元空間上での検討では,ここまで高精度でかつ経済的な近接回避を行うことは,まず不可能でしょう。アンカー配置を 3 次元空間上で検討することの圧倒的な優位性,さらにはアンカーの設計と施工における 3 次元管理の有用性をご認識いただけたことと思います。まさに「CIM」の効果の一つ,「合意形成の迅速化・高度化」を体感していただくための,絶好の事例になりました。

なお,上記の 3 次元アンカー配置モデルにつきましては,以下のリンクからダウンロードしていただくことが可能です。お手数をお掛けしますが,各ファイルをダウンロードしていただき,ご高覧いただければ幸いです。




 

“Slip Tips” では,今後も数回に渡って,グラウンドアンカー工法をテーマとしてアップしていきます。乞うご期待。(”Slip Tips” にて取り上げてほしい疑問がありましたら,リクエストをお寄せください。お待ちしております。)

さあ,アンカーの話をしよう!

平成 30 年 3 月 21 日 ライズ